京都の観光名所、伏見稲荷神社の千本鳥居から裏道を抜けて歩くこと10分。今回ご紹介する市民農園「風緑」があります。この農園を管理しているのは杉井正治(すぎいまさはる)さん。ご近所の農家さんやボランティアの人々と一緒に農園を管理しています。
プロフィール
杉井正治(すぎいまさはる)さん。
74歳。農家歴は約24年。
サラリーマンや手荷物配送サービス会社の創業・経営を経て農家に。
農薬がご自身の体質に合わなかったことで、無農薬での野菜の栽培方法にこだわってきた。
風緑では、春にとれる白子タケノコをはじめとして、レモン、ブルーベリー、栗、黒枝豆、水菜、ほうれん草、にんにく、人参、パパイヤ…などなどたくさんの種類の農作物を、全て無農薬で育てています。
稲荷山の大自然の中で、手間を惜しまず大事に育てられた野菜は絶品。一流レストランから発送の依頼が、全国から飛んでくるのだとか。
育てる野菜は、自分が食べておいしいもの
まつお
杉井さん、今日はよろしくお願いします!
杉井さん
おう。よろしく!
まつお
では、さっそくお話を聞いていきたいんですが、まずここで育ててる野菜は何種類あるかとか把握されているんですか?
杉井さん
いや、そんなん数えている暇ない。はっはっは(笑)
まつお
めちゃくちゃ種類ありますもんね〜(笑)
育てる野菜とかはどうやって決めてるんですか?
杉井さん
どれが一番お客さんが喜ぶんか、という。お客さんに合わす。で、一番の要因は、僕が食べて美味しいこと。それやったら薦めることができるんで。まずは作る人が食べる、それが一番やな。
まつお
なるほど、それはまちがいがないですね。
まつお
これだけの種類の野菜、お一人でお世話されているんですか?
杉井さん
いや、こんなんできひん、一人では。だから龍谷大学の学生や一般の人のボランティアがきてくれはるし、さまざまな人たちがきますね、ここは。
まつお
そうなんですねー。農園始めた当初から、お手伝いはいたんですか?
杉井さん
そうやね、いろいろいてはる。
農家になろうと思ったのは、環境を守りたかったから?
まつお
農園は今24年くらいやられているっておっしゃってましたけど、その前は何をやられてたんですか?
杉井さん
その前は、キャリーサービスの会社を仲間と立ち上げてやっとたね。それが3〜4年くらい。そっから、NPO法人やっとったんで、この地域の。行政と一緒にいろんな取り組みをしたね。
まつお
NPOではどんなことをされてたんですか?
杉井さん
自然環境保護の一環で、大岩山っていうゴミ山があんねんけど、そこのゴミを取るという作業を京都市と一緒にやったしね。それで、僕自身のことがみんなに知れわたったのかな、この深草で。深草でっていうより、もう京都でそういう具合になったからね。竹のことやったら杉井さんや、っていうふうになった。
まつお
へぇー、そうなんですねー!
杉井さん
やっぱり農業をやらんと、環境は守れない。農業が廃るから環境が悪なるという。だから、放置竹林とか畑でも手つかずのところが増えてくる。そんなん自然破壊やん?これはもうあかんわっていうことで、農業を始めた。根本的な要因はそこやろね。だから、農業をしっかりしたら、環境は守れる。
まつお
なるほど。
杉井さん
食べ物がない時に竹やぶが増えた。ほんで、たけのこを食べた。そういう時代背景があるので、今はもうそんな安い食べ物でもなんでも手に入んねやから、別にたけのこ食べんでも生きられるわけや。だから、竹林を保護して何とかせなあかんという気もないわね。食べるもんがいっぱいあんねやから。
まつお
じゃあ、NPOで活動する中で自然環境が目に見えて悪くなっていったから、農業を始めようと?
杉井さん
そうそう、もう行き先はそこしかないと思ったね。たかが知れてるけど、うちは土地あるんで。ほんで、竹藪もあるんで。それやったら何とか考えようか、っていうのでやり始めた。まあ、その結果たけのこええのが獲れてて、それは発送もやってるんで。いっぱいようけぇ買いにきてくれる人もいるしね。ええものが獲れてるっていうのはええことや。
まつお
杉井さんがいなかったら、放置竹林だらけに、、?
杉井さん
なってる。放置されてる状態やったもん。だから、僕がやり出して綺麗になってる。
まつお
農業始めた当初は、知識が全くない状態からのスタートだったんですよね?
杉井さん
うん。
まつお
そこはどうやって学ばれたんですか?
杉井さん
いや、勉強や、自分で。なんでも切ったら次どうなるかってことがわかってくるやん?レモンの木でも剪定って自分で考えたから。本見たら大体のことは書いてあるんやけど、その本はもっと前の資料を調べて作られとるから、古い。だから、今時のやり方じゃないと思う。だから、僕のやり方でやってる。だから春先に切ったら、次はどんな芽が出るのか、っていうのを自分で実際見る。見たらわかるしな。ほな、次の年はこういかなあかんなっていう剪定の仕方もわかってくるし、木みてたらほぼ大体わかってくるわ。手入れたらなあかんとかわかってくる、大体そんな感じや。
無農薬で育てた野菜は、おいしいの一言
まつお
無農薬で育てた野菜の一番の良さってどういうところですか?
杉井さん
おいしい!
もうその一言。健康になる俺みたいに、ほれ。(笑)
まつお
お元気ですもんねー!(笑)
杉井さん
ほんまおいしい。そらぁ、レタスやら作ってて葉っぱ一枚めくると中から幼虫が出てくるけれど、やっぱりおいしい。うん、その旨味で作ってるというか。その味がやっぱり忘れられない。
普通は、みんな鍋ってゆったら、鍋の素ってあって、キムチ鍋とかいろんなことしはるやん?あれは俺なんやと思うけど。
まつお
(鍋?)
杉井さん
本来鍋って、野菜やっぱ食べるんやから、その味がしなくてはおかしい。そのネギの味、白菜の味、ほうれん草の味、それを食べるんやから、いろんなもの入れて食べない。野菜で食べる。それも煮込まない。煮込んだらダメ、野菜の味が落ちる。うちの野菜は新鮮で、もう薬無しっていうのがわかってるんで、その食い方でもう最高。何とも言えない味、ほんでそこに大根入れたらめちゃくちゃうまいやんか!
まつお
、、、食べたくなってきました。(笑)
杉井さん
ははは(笑)
無農薬野菜、最大の敵
まつお
逆に、無農薬栽培の一番大変なことはなんですか?
杉井さん
いやぁ〜〜〜、ものすごい手間がかかる!
ほんで虫にやられるから、また1から種まいてやるとかそのへんが大変。もう何とも言えん。ほんで草もひかなあかんやろ、夏は。これからの季節はええけど、春からずっと草引きや、今度は。それがもう大変大変!もう見てる間に草生えてくるから。草を生やすと、どうしてもそこに住み着く虫が多くなる。やっぱり刈り取らんとあかんし、それが大変。
ほんで、種をまくのでも時期考えなあかんし。今年はこのへんでいけた。去年はこれでいけた。せやけど、来年がそれでいくか、いかへんか、わからへん。これだけおかしな天気が続くと。だからその時、その時で、細かく変わってくる。他の農家は8月から9月の終わりぐらいに大根の種まきはるけれど、だけどぼくら(無農薬栽培農家)はそんなことできひんもん。そんなんしたら、もう全部食われてしまう。だから白菜も今年2回失敗してる。やっぱりその辺が難しい、ちょっと気抜いたらあかん。
まつお
なるほどー、ずっと気が抜けないんですねー。
杉井さん
うん、ずっと考えてる、だから歳とれへんねん。歳とれへん、ほんま。(笑)
まつお
(笑)
杉井さん
特にね。ここは周りに、何もないところでしょ?
稲荷山があって、竹やぶがあって、そんなんでしょ。だから、いっぱい虫がおるの、ここ。環境が違うねん。ホンマにここは自然の中の畑なんや。
そんな中でやってるから鳥はいっぱいブルーベリーくいにくるわ。もうすごいとこなんや。そのなかでやってるから、大変大変。周りが畑やってはって、農薬つこてるところがあれば、そこでいろいろ害虫が死んでしもてるわけ。薬で周りが固めてあったら、もうそこには害虫はきいひんわね。だけど、そういう状況じゃないからここは。薬もなにも飛んでくるところないんやから難易度高い。
まつお
ほんとに山の中ですもんねー。
おいしい野菜が育つ理由は、太陽の光と風
杉井さん
一番気にしてるのは、基本は太陽。それと風。風が通らへんかったら絶対あかん。なんぼお日さんが照っててもよどんだ感じのとこやったらもう絶対だめ。ええのできひん。風ってものすごい大事。風でやっぱり救われる。植物が育つ。野菜も育つ。
まつお
あー、だからあのペットボトルの風車を、いっぱいおいてるんですか?
杉井さん
ああ(笑) あれも楽しいやん?一人じゃなくて、あれ動いてくれとるわいうので、風車。だけど、あれ、もぐらよけにしようおもてやってんねやけど、あんまり大して効かない。(笑) もう、もぐらがなんぼでもおるから
まつお
あ、もぐらよけだったんですか!あれ!(笑)
なんでも一生懸命やる
まつお
農業をする上で、大切にされている考え方はありますか?
杉井さん
うーん、何をしていても一緒違うかなー?
一生懸命やることやな!
農業をする上とかじゃなくて、一緒や思うわ。おれ今まで色々な商売もやってきたし、だから何でも、一生懸命することやな。そうなるとモノを見る目も違ってくるし、モノを見る目が変われば、考え方がそこで変わってくるし。何でも一生懸命することやわ。
杉井さん
あのー、なんて言うのか。死ぬ時に自分を振り返って、あーこんだけやってきたんか、という。なんかそういう思いをひとつ描きたいね。なんかそういう人生であればええかな。振り返りができるような。もうこれ以上ええやろっていう。
やっぱ人間として生まれたら、そういう姿が本来の姿違う?うん、俺もこれを作ることによって人のためになってんねやし、間接的にでも。やっぱり、そういうつながりが出来上がったらええん違うかな、ほんならそこにはあらゆる仲間がおるし、仲間に助けられて、また何かがおこるという。それが人生や(笑)
まつお
かっこいい!(笑)これでインタビュー終了です。長い間ありがとうございました。
杉井さん
おう!ありがとう。
終わりに
”何でも一生懸命にやる”
シンプルな言葉ですが、杉井さんの農業に向き合うまっすぐな姿勢を現している言葉はこれ以上ないと思いました。
水やりのときでも、畝を作るときでも、苗を植えるときでも、手間を惜しむことなく丁寧にひとつひとつの作業に取り組まれています。
そんな杉井さんの人柄と、杉井さんが手塩にかけて育てたおいしい野菜にひかれて、風緑にはたくさんの人が訪れてきます。野菜を買いに来る人、地元の大学の学生ボランティア、農業に興味がある人、などなど。
”ほんならそこにはあらゆる仲間がおるし、仲間に助けられて、また何かがおこるという。”
なにかに一生懸命に取り組むことで人の役に立ち、そこからつながりが育まれ、仲間になり、また新しいなにかが生まれてくる。そうした循環があるということを、杉井さんから教わりました。
☆風緑農園さんでは、一年中農業体験ができます。お申し込みは下記のリンクからできます。
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